それは如月モモのライブの帰り道のことだった。
如月モモ。今私が夢中なアイドル。今までも好きなアイドルは結構いたが今回は比じゃない。メディアの露出があまり多くない彼女だけれど、モモちゃんが出た雑誌は全て買っているし、出演した番組はしっかり録画、後コピー。CDはもちろん。部屋は彼女のポスターでいっぱいである。そして今回のライブ。泣いた。あまりの可愛さに泣いた。彼女の可愛さは人類の神秘だと思った。まわりのドルオタ(男)に負けないよう、自分の中で一番高い声を絞り出し、彼女の名前を叫んだ。
私、これからもモモちゃんに貢いで行く。そう決めるのに十分な約二時間の今日のライブでした。モモちゃん超可愛い。
そんな疲労と充実感でいっぱいの私の目の前。今一人の少女が泣いています。真っ白でふわふわな髪に、エプロンドレス。まさに絵本から出てきたような森ガールチックなこの美少女は目に涙をいっぱいに溜めてあたりをきょろきょろ見回して。迷子かな?迷子だろうな。
大人気国民的男性アイドルグループ「ワラジ」ではなくモモちゃんに入れ込むあたり、私が女の子大好きなのは察してもらえると思う。そんな私の目の前で美少女が困っている。それを放っておけるだろうか。否!

「ねえ、どうしたの?」
「ひいっ!」

声をかければ、心底怯えたような顔をする美少女。うおー、ちょっと傷ついた…。いよいよ涙が溢れそうな彼女に、目線を合わせるようにして膝を折り曲げる。そうして彼女を安心させるよう、出来るかぎり優しさを込めてにっこり。

「迷子かな?」

自分至上最も優しい笑み(当社比)が効いたのか、未だ瞳は潤んだままだかこくこくとうなずく美少女。とりあえず携帯は持っていないようだし、一緒にこの子のお連れさんを探してあげることにする。
いやあ、なんだか久しぶりに社会に貢献しているような気がする。それが美少女のためという下心有りのものでも。
こんな私に神様、ご褒美くれないかな。例えば偶然街でモモちゃん見かけるとか。なんちゃって!ふふー、いやいや、そんな贅沢言いませんよー。一日一善、なんてどっかで見たことあるしね!小さなことからこつこつと。普段の行いが運を左右するって言いますし。

「あれ…この缶バッジ」
「ん?」
「モモちゃんだ」
「お、君もモモちゃん好きなのかい?」
「う、うん…!大好き」
「ふふー、そっかそっかー。君良い子だねー、モモちゃん好きに悪い人いないからねー。
いやー、可愛いよねー、モモちゃん」
「お姉さん、モモちゃん知ってるの?」
「もちろんさ!というか、大ファンさ!」
「ファン?あ、あのね、今探してるのってね…」
「マリーちゃーん!」
「あ、モモちゃん!!お姉さん、ありがとう!見つかっ…お姉さん?」
「その人どうしたの…えぇぇっ、ちょ、大丈夫ですかーっ!?」

あぁ、神様。私は今はじめて貴方に感謝しております。やっぱり人に親切にするって、素晴らしいことですね。
目の前に世界一可愛らしい顔に焦りを浮かべて美少女が走り寄ってくるのを確認し、突然の出来事に頭が処理しきれず、意識が遠のいていくのを私は感じていた。