携帯の機種変をし、防水のものとなってから、風呂場で操作をすることが増えた。
湯船にゆっくり浸かりながら、メールを作成したり、ニュースを見たり、好きなアーティストのサイトを見たり。
そうすると自然と長風呂になってくるわけで。毎日長い時間湯船に浸かる私の風呂の順番は、セトがバイトで遅くならない限りは最後となる。
今日も今日とて長風呂の私が風呂に入るのは、一番最後。団員の半分は既に寝静まり、残りの団員も自室で寛いでいるであろう時間帯だった。
「」
湯舟に浸かりながら鼻歌交じりに携帯を操作していれば、自室にいると思っていたキドの声が半透明のドアの向こうから聞こえる。
そのままそのドアは開き、キドの顔とその手に持ったシャンプーが覗いた。
「シャンプー、切れただろ。持ってきたぞ」
「ん、ありがと」
確かに湯船に入る前にボトルを傾けたらシャンプーは空で、後で自分で持ってこなくてはと思っていたのだ。助かった。
そのままキドは一歩、浴室に足を踏み入れる。
彼女が普通に私の入っているこの浴室に自由に踏み入ることができるのは同じ女同士だから、という他に私達が恋人同士であるから。
キスより先のこともやっているのだ。今更裸を見られたって、別に何とも思わない。
もっとも、そう思うのは私だけで、未だにキドはたまに顔を赤らめるけれど。そういう所が可愛いんだよなあ。
そんなことを考えにやにやと笑む私を余所にキドは脇にシャンプーを置き、湯船にちゃぽんと片手を沈めた。
「お湯、ぬるくなっているじゃないか。追炊きしとけ」
「えー、もう気温もそんなに低くないし大丈夫だよー」
「風邪ひくぞ」
眉を寄せたキドに軽く叱られる。
キドは実に面倒見が良い。メカクシ団ではお母さん的存在でとても過保護。こんな風に心配をやくのはなにも私に対してだけではなかった。
ちくしょう少し妬けてしまう。
この過保護も恋人の特権なら良かったのに。
浴槽の縁に顎を置きキドを見つめていれば、少し面白いことを思い付く。未だ私がぬるいお湯に浸かっているのが不服そうな彼女にちょいちょいと手招きをした。
「なん、だ……っ!!?」
一歩、また一歩と近づいてくるキドの腕を取り、勢いよくこちらへと引っ張る。
そうして引きずり込まれたキドの落ちた湯船はバッシャアン!!と盛大に飛沫を上げ、私を濡らした。「わ、ぷっ」なんて慌てたような声を上げるキドがなんだか可笑しくて、次第に笑いがこみ上げてくる。
「あ、はははっ、あははっ!!」
「なっ、ちょ、!!いきなり何するんだ!!」
「だって、はははっ、キドずぶ濡れ、おかしー…っ」
「誰のせいだとっ!」
深夜のわけのわからないテンションも相まって、笑いが止まらない。ひぃひぃとお腹を抱える私をキドは呆れたように見下ろし、うっとおしそうに濡れた髪をかきあげた。
一通り笑い通すと、腹筋はすでに痛くなっていた。
「治まったか」
「っふふ…、なんとかね」
心底呆れたようなキドの声に、深呼吸をして呼吸を落ち着ける。すっかり治まり、ふうと一呼吸。湯船に肩まで浸かり、改めてキドをじろじろと見つめれば、居心地の悪そうに身じろぎをした。
うーん、なんというか、
「えっろ」
「はぁ!?」
きっと今まで部屋で寛いでいたのだろう。キドはいつもの某音楽プレイヤーのデザインされたパーカーを着ておらず、上は薄手のTシャツ一枚だった。
それがお湯に濡れ、肌に吸い付いている。正直めちゃくちゃえろい。何も纏っていない完全裸の私よりえろいってどういうことなの。
そこからの自分の行動は、半ば無意識だった。今まで笑いながらも濡れないように気を付けていた右手に持った携帯を顔面へと持っていき、カメラモードへ。それを目の前で赤い顔をしている彼女へと焦点を合わせ、
カシャリ。
「なっ、なん!?」
「…おー、よく撮れてる。よっしゃ、保存」
「するな、馬鹿かお前は!!?」
「わっ、ちょ、キドやめっ」
思いの外上手く撮れた写真に満足し、保存しようとすると、真っ赤になったキドが右手のカメラを奪おうと試みてくる。それを左手で制し、取られない様に携帯を持った右手を高くあげる。なんだかまた笑いがこみ上げてきた。
「ぷっ、あはは、キド、必死…っ」
「お、前が変な写真撮るから…っ」
「変じゃないよー、可愛く撮れてるよー」
「いいからっ、よこせぇっ」
「やーだ」
笑いながら、携帯を片手操作する。
保存しますか?はい、もちろん。保存しました。
その間も何とか携帯を奪還しようとキドは手を伸ばす。最早涙目だ。可愛い。
しかし、必死で手を伸ばしてくるものだから、キドの身体はまぁ私の上に被さる形となるわけで。密着する身体と身体。おまけに、だからさっきからえろいと言っているじゃないか。
キドは私の携帯にだけ気がいっているから、お互いの顔がすぐ近くにあることに気がつかない。それこそ、少し傾ければキスができそうなほど。
真っ赤で涙目なキドの顔。それになんだかいけない気持ちになってくるのは、仕方のないことでしょう。
「キード」
「なん…きゃっ」
私の横についていたキドの手を軽く払えば、お湯を大きく鳴らし私へと完全に身体を預けることになる。
きゃっ、だって。可愛い。
私といるときは、普段より女の子の部分を見せてくれる彼女。ほら、恨めしそうに私を見上げてくるその顔だって、もう完全に女のものだってこと、気付いてる?
もう堪らなくなってしまい、可愛いと小さく呟き顔を近づかせ、柔らかい唇に自分のものを重ね合わせた。
あ、やべ。携帯お湯ぽちゃしてる。